
Huawei P40 Pro+ってどうやって光学10倍みたいなとんでもない倍率を叩き出してるの?

単にペリスコープだけでは説明できないんだ。ペリスコープでは光学5倍が限界だからね。それをHuaweiは5回も光を折り曲げることで光学10倍望遠を実現したんだ!!
Huawei P40 Pro+の望遠レンズとは

Huawei P40 Pro+はHuaweiの2020年上半期のフラッグシップの中のフラッグシップで、なんと5眼もカメラが搭載されています。P40シリーズの中で最強の本機種は望遠レンズが強化されたモデルになります。なんと、二個の望遠レンズが搭載され、一つは通常の望遠スマホに搭載される光学3倍のもの、もう一つは光学10倍望遠というスマホでは初搭載の物理的に最強な望遠カメラが搭載されました。この2つの望遠レンズを使うことで、スムーズの10倍望遠までを可能にし、AI補正も合わさって、20倍ハイブリット、最大100倍の望遠を可能にしています。

この作例が、P40 Pro+の光学3倍+10倍望遠の威力ですよ。ブルジュ・ハリファの写真を撮っているかと思ったら、その近くのプールの遊歩道までくっきりと撮れてしまいます。50倍のデジタルズームでもはっきりと撮れるのですから恐ろしい時代になりました。これは、スパイには必須のスマホになりそうです。ちなみに、光学10倍(焦点距離240mm)の一眼レフのレンズはこのようなものとなります。

これはズームレンズなので一概に比較はできませんが、このように巨大なレンズと同じ光学倍率の望遠カメラをこの薄いスマホに詰め込んでいるのですよ。Huaweiの技術力には驚かされるばかりです。
光学10倍望遠は従来のペリスコープ構造とは大きく異なる

先代のHuawei P30 Proは世界初のペリスコープ構造を取り入れたスマホで光学5倍望遠を可能としました。ペリスコープとは潜水艦で用いる潜望鏡のことで、海の下から海上を見るために光をプリズムで曲げ潜水艦に視野を届けます。Huaweiはこのペリスコープ構造を用い、光を直角に曲げ本来であれば縦にのびる望遠レンズを横にしまうことで、スマホという限られた空間で光学5倍という驚異の望遠を実現しました。この光学5倍望遠はP40 ProではイメージセンサーがHuaweiお得意のRYYBセンサーに変わり搭載されています。

さて、P30 Proのペリスコープ構造を見れば、P40 Proの光学10倍望遠レンズも同様の構造をとっているかと思いますが、ところがどっこい、このような、とんでもなく複雑な構造がスマホの中に組み込まれてたのです。5回も光を曲げ、可動部分が二つもあるのです。これには、多くの人が驚き「わけがわからないよ」と嘆きました。筆者も初めは訳がわかりませんでしが、京大理学部生の意地もありこの構造をとる理由を解き明かしました。中学・高校レベルの基礎的な物理学で説明できるので、ついてきてください。わからない点があればコメント欄にどうぞ。このとち狂った構造興味がそそられませんか?
焦点距離で望遠・広角・超広角が決まる
初めに、レンズと焦点のおさらいをしていきます。

まずは、焦点です。焦点は図のように平行な光がレンズによって曲げられ一点に集まる点です。虫眼鏡で紙を燃やすことができる点と同じですね。この焦点からレンズの中心までの距離を焦点距離と呼びます。ただの定義ですね。難しくはありません。(スペック表には240mmという焦点距離がかいてありますが、これは物理における焦点距離ではなく、35mm判換算焦点距離というカメラ業界でよく使われる換算距離なので物理での焦点距離とは異なるのでご注意ください。)
この焦点距離の違いによって、超広角・広角・望遠など現在のスマホが多眼化している理由がわかります。焦点距離の大小で比較してみましょう。

このように、焦点距離が小さい場合、画角が広くなります。これをスマホ業界では超広角と呼んでいます。焦点距離が小さい為、カメラユニットの奥行は小さくコンパクトです。
対して、焦点距離が大きい場合は画角が狭くなります、このとき望遠となります。焦点距離が大きい為カメラユニットは必然的に長くなります。より画角を狭く、望遠を強めたいのであれば、焦点距離をどんどん伸ばす必要があります。このため、Huawei P40 Pro+は光学10倍望遠カメラで5回も光を曲げ距離を伸ばしているのです。これにより、従来に比べ1.78倍も距離をのばせたそうです。これが、P40 Pro+が5回も光を曲げている理由のうちの一つです。しかし、他にも重要な理由があります。それはピント合わせです。
ピントを合わせるために光を曲げるのだ!!
すべての物理現象が先ほどのように図だけで説明できるかというと、そうは問屋が卸しません。できたとしても、数式で考えたほうが分かりやすい場合も多いです。ここからは簡単な数式がでますが、どれも簡単なのでリラックスしてご覧ください。理解のための数式だということをお忘れなく。

使うのはレンズの公式です。公式がでて嫌だなと思うかたもいるかもしれませんが、上のようにとても簡単な公式です。ここは物理の記事ではないので導出はしません。導出はWIkipediaを参考にしてください。似た三角形を見つけるだけで簡単に導けます。
さて、このレンズの公式を式変形していきます。求めたいのは、焦点距離とピントの合う点の差、b-fです。なぜかというと、ピント合わせのためにどれだけ動かさなければいけないのかを考えていきたいからです。

このように、b-fはfの二乗以上の割合で大きくなるため、焦点距離が大きくなれば大きくなるほど、ピントがずれたときにレンズを動かす量が多くなるわけです。(正確に計算するには、aの微小変化を考える必要があるため微分等を行わなければいけませんが、そこまではやりません。詳しく知りたい方はTOSHIBAさんが微分を用いて解説している記事を見つけたので、このなかの縦倍率を参考にしてください。結論は同じですが厳密性を求める方はどうぞ。)直感でもわからなくはないですが、式で見ると一目でわかるので、数式をもちいました。

これで、V字型の鏡ユニットが移動する理由がわかります。通常の広角レンズなどでは、オートフォーカスはこのアクチュエーターが担っています、焦点距離が小さい為、ピントを動かす量は小さいためこんなに小さいユニットでも可能なのです。ちなみにOIS(光学式手振れ補正)もこのアクチュエーターが担っています。
ただ、先ほどの数式で分かりますが、焦点距離が大きければ大きいほど、ピントを合わすためにレンズを動かす量が増えるわけです。しかし、レンズをそんなに動かうスペースはないわけですよ。そこで、Huaweiは4回光を追加で曲げ、V字型の鏡を動作することで、bの長さを調節するのです。

このように、V字型のカメラユニットを移動させることによって、レンズとイメージセンサー間の経路、つまり、bが短くなりました。なるほど、こういう方法があるわけですか。スマホ開発には柔軟性が必要なのですね。これにより、ピントが即座に合うことでしょう。いやぁー、これさぁ。分解して、ピントを合わせてみたら、V字ユニットが動くのを見てみたいなぁ。見たい。見たい。見たい。(プリズムは鏡じゃないのに光を反射するのが不思議だなと思う方は全反射を調べてみてください。)
最後にカメラユニットに入光させるための45°傾いた鏡はOIS(光学式手振れ補正)用です。通常のプリズムでは。光学式手振れ補正が弱いと判断し、もっと大胆に曲げられる鏡を利用しているといったところしょう。望遠にすればするほど手振れはひどくなりますから。
まとめると、この5回光を曲げる独特なシステムは、
①焦点距離が延び、レンズとイメージセンサー間の距離が必要となったため
②焦点距離が伸びたことにより、ピント合わせをするために移動させるレンズとイメージセンサーの間の距離の増加のため
③強力なOIS(光学式手振れ補正)のため
の3つの理由のために、採用されたということがわかりました。こうやって、物理は日常生活に応用できるので楽しいです。
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Huawei P50 Pro++の予想
さて、Huaweiの光学10倍を実現するための技術で頭が柔らかくなった筆者はいつも通りの妄想癖で、来年のHuawei P50 Pro++の予想を始めました。その予想図がこちらです。

説明していきます。いままで、すべてのスマホが複数のカメラを積んでいるのは、各レンズの焦点距離を変えられないからです。こういうレンズを一眼レフカメラの世界では単焦点レンズといわれます。しかし、一眼レフを持っている人がレンズを変えまくって様々な画角を撮っているのってあまりみかけませんよね。(プロはF値を抑えられるためよく使うが)P40 Pro+は5つもカメラをつんでいるので、5つのレンズを持ち歩き状況に応じてつけかえる一眼レフカメラマンと同じわけです。
しかし、そんなに付け替えるのは面倒なので、多くの人が使っているのがズームレンズです。ズームレンズは、焦点距離を変えられるレンズで、一つのレンズで様々な画角の写真が撮れます。つまり、倍率が変えられるということです。これを利用するためには、レンズ群とレンズ群間の距離を変動させてやる必要があります。先ほどまでのモデルでは複数のレンズをまとめて一つのレンズとみなしていましたが、実際は複数のレンズがカメラには入っているわけです。一般的にズームレンズには12枚の凹凸のレンズが使われる場合が多いです。Huaweiの次なる目標は間違いなくズームレンズだと思っているので、このズームレンズを小さいスマホの筐体内に収めるためになんと9回も光を曲げ実現したのが、筆者の予想図です。なずけて、P50 Pro++です。1回目の反射点でOIS(光学式手振れ補正)、2~5回目の反射点でズームレンズ機構、6~9回目の反射点でピント合わせをしています。いやぁ、これはなかなかあり得るんじゃないですかね。これで、適当ですが、光学3~50倍の変倍ズームが可能となっています。どうでしょうか、皆さんも高性能なズームレンズのアイデアがあればコメント欄にお書きください。Huaweiは物理的に面白い機構をスマホにのせてきますからわくわくしますね。また、来年が楽しみです。
望遠レンズの秘密に迫るシリーズはこの、P40 Pro+が第一弾で、第二弾は、Xiaomi Mi 10 Proが非ペリスコープなのに、なぜハイブリット10倍に迫ることができるのか?です。この記事が楽しめた方は楽しめると思いますよ。各社、望遠へのアプローチの仕方が違って面白いです。
カメラについてもっと知りたい方はこの本がおすすめです!僕もこれで勉強しています。わかりやすいのに、細かいことまで説明されていて読みごたえがあって最高です!